ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
SCMソリューション第2本部 SCMソリューション3部
有海 洋平
製造業にとって不良品をゼロにすること、いわゆる"ゼロディフェクト"の実現は永遠のテーマと言っても過言ではない。不良品を出荷しないのではなく、「そもそも不良品を作らない」のが理想だ。
この課題解決に向けてソリューション事業本部SCMソリューション第2本部SCMソリューション2部の有海洋平がリーダーを務めるコンサルティングチームは、第3世代のAI(人工知能)のコア技術とされる機械学習を活用した分析ソリューションで品質改善を支援している。
ある電子部品メーカーも経営の重要テーマとしてゼロディフェクトを追求し続け、日々の品質改善を重ねてきた結果、主力製品について平均98%という歩留まりを達成するまでになった。だが、最終ゴールまでの残り2%の不良を排除するのは容易ではない。あらゆる手を尽くしたつもりでも、不良品は複数の事象の組み合わせで起きるため、根本原因を特定するのが困難なのだ。加えて、それらの原因は環境変化にも敏感であり、再現性はきわめて低い。
そうしたなか、2017年3月からこの電子部品メーカーのコンサルティングを担当し、生産工場の品質部門と一体になって課題解決に取り組んでいるのが、有海洋平をプロジェクトマネージャー兼コンサルティングリーダーとするリューション事業本部SCMソリューション第2本部SCMソリューション2部のチームである。
具体的に有海が率いる同チームが課題解決に向けて展開しているのは、AI・機械学習を活用したアプローチだ。 「これまでお客様は、長年にわたり蓄積してきた試作時のデータや量産化後の製造履歴などのビッグデータに対して、統計解析手法を適用することで品質改善を図ってきました。しかし、その数式モデルを作成するためには非常に高度で専門的な学術的知見が要求され、結果が導き出されるまでには長い時間がかかりました。
そこでB-EN-Gが提案したツール(※1)は、ビッグデータを機械学習のルール抽出(Rule Induction)手法で読み解くことにより、良品(Good)が作られるルール(共通点)および不良品(Bad)が発生するルールを発見するというものです。事実ベースで分析を行うことから短時間で結果を得ることができ、『Goodルールに従い、Badルールを避ける』というシンプルな形で品質改善のPDCAサイクルを高速化することができます」
機械学習のアプローチも、決して万能ではない。仮にビッグデータを収集し、それらを高速処理できる仕組みがあったとしても、求める答えが自動的に湧いてくるわけではないのだ。
そもそも一口にデータといっても、中身はさまざまだ。例えばテキスト入力された項目は担当者によって表現に大きなバラツキがある。数値についても各製造プロセスやロット単位で一意に決まるものもあれば、試験データのようにサンプル毎のデータとその統計値(標準偏差、平均値など)が有り、多角的な観点で検証しなければならないものもある。
「型や粒度、諸元のまったく異なる多様なデータを、いかなる方法でクレンジングや名寄せを行って統合し、管理図や相関図など最終的にどんな形に落とし込んで可視化するのか――。すなわちETL(Extract Transform Load)領域のツール選定や、データマネジメントそのもののコンセプトづくりが非常に重要な要件となります」
また分析から得られるルールも、決して結果オーライのブラックボックスであってはならない。根本原因を学術的見地から究明し、理論によって裏付けを固める必要がある。
「その意味からもビッグデータからアルゴリズムを形成するとともに、根拠を示すことができる機械学習のルール抽出(Rule Induction)手法の利点に注目しました。データ分析のホワイトボックス化によって、初めて不良品発生に大きな影響を及ぼしている根本原因にあたりをつけ、その上で仮説を検証することもできます」
有海が描く課題解決の戦略は、大きく次の4つのポイントに集約することができる。
1.分析手法の見通しが立っていない段階でも分析ができる
多少の例外が含まれていても、全体を俯瞰するルールを抽出し、GoodとBadのそれぞれについて大まかなトレンドを掴むことができる。さらにその結果に基づき、PDCAサイクルを回しつつ分析を深めていくことが可能。
2.熟練者の知見を活用できる
製造プロセスやパラメータを熟知した生産現場のベテランによる既知の経験則を入力し、実績データと組み合わせた指標で定量的に評価することが可能。また指標の精度を上げるために、追加すべき条件を自動検出する。
3.欠損の多いデータの影響を受けにくい
ボトムアップでGoodおよびBadそれぞれの条件式を作り、共通点を発見するため、データ量や欠損の影響を受けにくい。
4.様々なパターン分析が可能
人間の考え方に近い手法であるため、品質改善業務の中で実践しやすい自由で様々な形での分析が可能である。
有海が上記のような製造品質データ分析のノウハウを磨いてきた背景としては、これまで主に製薬業界の生産領域において、計画の遵守、安定稼動、歩留まり向上、危険察知などを実現するためのデータ統合・分析を主導してきた経験が大きい。
ERPとMES(Manufacturing Execution System)、さらにはシーケンサーや各種検査機器など工場内設備の状態監視を担うSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)、倉庫を含めた自動搬送を制御するMHS(Material Handling System)まで一貫したシステム統合をサポートしてきた。
具体的には豊富なコネクターを有するSAP Manufacturing Integration and Intelligence(SAP MII)を基盤に活用。それまで紙の帳票や個人管理のExcelシート、複数のシステムに散在していた製造・品質データを統合することで、オンラインによるデータ収集、ならびにXBAR(計量値の平均値)やEWMA(移動平均)といった指標に基づいた品質情報の傾向分析、ダッシュボードによるリアルタイムのモニタリングなどを実現し、不良品調査のスピードアップに大きな貢献を果たしてきたのである。
「製造現場のあらゆるデータを装置の階層からボトムアップで捉えることができる力は、プラントエンジニアリングを主事業とする前身の東洋エンジニアリング 産業システム事業部時代から脈々と継承されてきたものです。ひいては、それが他社の追随を許さないB-EN-Gの強さになっていると自負しています。このバックグラウンドがあるからこそ、製薬業界の生産工場で培ってきた品質改善の知見を電子部品メーカーでも活かすことができるのです」
もちろん、業界が変われば関係者の間で交わされている"言葉"や暗黙知となっている"常識"も大きく違ってくる。そこにいかに順応しながら対応していくかも、コンサルティングにおける重要なポイトンだ。
「お客様先では品質管理のプロフェッショナル(工学博士や薬学博士など)と接する機会が多いため、システム寄りの話になり過ぎないように気をつけています。そのためにも会話の前提となる統計学のようなアカデミックな知識を押さえておくのは当然ですが、それだけではなく、お客様の業界記事や論文などからも最新情報を得て、より具体的な説明をできるように心がけています」
そして、この経験はプロジェクトチームのメンバーやソリューション事業本部の他部署にも波及していき、B-EN-Gの総合力をさらに高めていくことになる。ここにも、B-EN-Gの強さの一つがある。
※1:基盤となるシステムとして採用したのは、ダッソー・システムズのDELMIA Operations Intelligenceである。
[掲載内容は2018年3月時点のものです]
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