ビジネスエンジニアリング株式会社
新商品開発本部
マーケティング企画本部 商品企画1部
深澤 俊男
デジタル化に向かう製造業だが、作業改善や生産性向上に寄与するデータはまだまだ足りていないのが現実だ。特に「作業者」に関するデータの整備は依然として進んでおらず、詳細な分析や作業改善は困難な状況にある。
これに強い問題意識を持った新商品開発本部 マーケティング企画本部 商品企画第2部の深澤俊男は、自らのシーズを体現したプロトタイプを開発、実際に課題を抱えた企業とPoC(概念実証)を共同実施することで、作業者の動きや姿勢のデータ化および分析を実現するソリューションのブラッシュアップを推進している。
製造業における生産性は「Man(作業者)」「Machine(機械設備)」「Material(原材料)」「Method(作業方法)」のいわゆる"4M"に対して、経営資源をバランス良く投入することで高めることができると言われている。
その的確な判断のために求められるのが、客観的な裏づけをもって指標化されたデータ(数値)である。上記の4Mのうち「Machine」と「Material」ついては、ERP(Enterprise Resource Planning)、MRP(Material Requirements Planning)、MES(Manufacturing Execution System)、 SCM(Supply Chain Management)などのシステムによって、かなりのレベルまでデータの収集および指標化が実現されている。「Machine」についても、若干の遅れはとっていたものの、IoT(Internet of Things)のアプローチにより、これまでなかったデータの収集と可視化、周辺システムとの連携などが進みつつある。
だが、ほとんど手つかずのものがある。2000年に入社して以来、多くの製造業に対してERPを基盤とした基幹システムの導入支援、MESの開発・インテグレーションなどのコンサルティングを担当し、現在はデータサイエンティストとして活動する深澤が、データの"デッド・スポット"と捉えたのが「Man」の領域だ。
「どれだけ機械設備や作業方法を最適化しても、作業者が対応できなければ工場全体としての効率化は実現できません。また世界的な動向として、製造現場の安全性が厳しく問われており、作業から受ける身体の負荷を客観的な数値で評価できる体制づくりが急がれています」と深澤は問題を指摘する。
もちろん現在の生産プロセスにおいても、作業者に関するデータがまったく存在しないわけではない。しかし、そこで取得されているのは、1人の作業者がその工程に費やした時間や不良品の発生件数といった"結果データ"のみであり、そもそもの要因となっている身体の動作や姿勢の評価については未知に近い状態なのだ。たとえばスポーツの分野ではそれぞれの競技に応じて全身の筋力を効率的に使うためのフォームの研究などもかなり進んでいるが、製造分野における作業者の動きに関する分析は立ち遅れているのが現実だ。
そして、「だからこそ自分が先陣を切ってやってみる価値があると思いました。製造業の現場では高齢化による人手不足なども深刻な問題となっているだけに、社会的にも大きな意義があります」と深澤は強調する。
こうして深澤が作り上げたのが、モーションセンサーやカメラで捉えた作業者の動きや姿勢を3次元データ化し、可視化するシステムのプロトタイプである。
ただし、個人的なシーズによって作り上げることができるのはここまでだ。このシステムが本当に役立つものとなるかどうかは、実際の製造現場に持ち込んでみなければわからない。
「そもそも実際の製造現場において、作業者の動きや姿勢をデータ化したいというニーズがどれだけあるのかも明らかではありません。また作業者の動きや姿勢をデータ化することに価値を感じていただけたとしても、それを見てどれが良くて、どれが悪いのかを判断できなければ、運用に落とし込むことはできません。いずれにしてもお客様が抱える課題の実態を掴まないことには、先に進むことができないのです」と深澤は語る。
そして深澤は、共にPoCに乗り出してくれる企業を探した。そうした中で強い共感を示してくれたのが、自動車関連のある製造会社だった。
「そのお客様も以前から、作業者の安全性確保や生産性向上を実現するためには製造現場での動きや姿勢といったレベルから検証する必要があると感じていたのです。ただ、それを実現する方法がわからず、ビデオに撮ってモニタリングしようと考えていました。そこに我々のプロトタイプを提示したところ、『このシステムならば自分たちが行おうとしていた方法よりもはるかに多角的かつ正確なデータを取得し、その後の分析にも容易につなげていくことができる』と高い評価を頂戴したのです」(深澤)
PoCを通じて、この会社と深澤はどんな成果を獲得することができたのだろうか。 まず作業者の安全性確保の観点から挙げられるのは、身体の骨格点間の距離・角度から姿勢や動作を定量的に評価する3Dモデル分析である。「腰や肩、手首などに負担がかかる姿勢を工程ごとに評価し、基準を超えたデータをリスクとして判定します。また、その作業時間や負荷度合から評価を行い、作業の改善を図ります」(深澤)
また、作業手順の順守や異常動作の把握、ポカヨケといった作業保証の観点からは、手や歩行などの距離計測と3D軌跡によって動線を定量的かつ視覚的に把握する動線分析が大きな効果をもたらした。「作業場所や工具・部品置き場へ移動する際の時間・回数・距離などの指標から、標準との差異を定量的に把握し、異常動作を検知するとともに改善ポイントを見出すことが可能になりました」(深澤)
なお、上記のような成果をもたらした機能の主要部分を汎用化し、システムに実装することで製品化を図ったものが、現在の「mcframe MOTION」である。
もっとも深澤自身は、作業者の動きや姿勢のデータ化に向けた取り組みを「まだまだ道半ばに過ぎない」と捉えている。現在はManに閉じた範囲内でのデータ取得や分析に、ようやくメドが立ったところなのだ。結果として「良い動作や姿勢」を見出せたとしても、それが本当の意味での作業改善や生産性向上につながるかどうかは別問題だ。Machine、Material、Methodにまたがるデータの統合的な分析を実現することで、はじめて全体最適の課題解決を図ることが可能となる。
また製造業といっても、手がける製品や業態は多種多様であり、企業ごとの業務や目的、課題によって必要とするデータは大きく変わってくる。したがって「やるべきことは山積みです」と語る深澤のチャレンジは今後もまだ続く。
「何事にも慎重な構えをとる製造業のお客様は、どんなに斬新なアイデアを提示しても、それが"机上の空論"に過ぎない時点では動いてくれません。実際のモノを目にし、評価できるようになった段階ではじめて真剣に受け止め、本格的な議論がスタートします。要するに最も重要なポイントは、私が提示するさまざまな要素技術を通じて、いかにお客様に気づきを与え、発想の連鎖を促すことができるかにあります」(深澤)
製造業におけるデジタル化は進んでいるように見えて、意外とできていない分野も数多く残っている。だからこそ、地に足の着いた取り組みが求められるのだ。ハードウェア、ソフトウェアの技術の進化を見極めながら、データドリブンの課題解決をリードしていくデータサイエンティストとして、深澤はこれまでやりたくてもできなかったこと、あるいは思いもよらなかったことを、多くの製造現場で実現していく考えだ。
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