ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
デジタルビジネス本部 データマネジメント部
シニアアーキテクト
加藤 義弘
ビジネスに不可欠なデータを組織的かつ戦略的に活用できる状態を継続的に維持し、さらに進化させていくことで、データが持つ価値を最大限に発揮させることができる。
この取り組みの根幹となるデータ基盤の企画・構想・策定からアーキテクチャ設計、システム構築、その後のマスタ運用管理、体制整備に至るまで、トータルなサービスを提供する専門組織がB-EN-Gで始動したのは2014年のことだ。その創設メンバーの一人である加藤義弘は、いわば“初物づくし”と言うべき困難なプロジェクトを次々とリードし、クライアントから絶大な信頼を勝ち取っている。
業務ごとにシステムがあり、そのシステムに閉じたデータの管理と利用を考えるだけにとどまっていた時代には、「データマネジメント」はいまほど注目されていなかった。しかし誰もが情報技術の発達を身近に感じ、その利用の可能性に大きな期待を抱くようになったいま、経営から求められているのは組織横断的な取り組みテーマに対してデータを活用できる仕組みである。
データソースから目的に合致したデータを収集し、分類し、組み合わせて、表示させる。収集対象のデータの品質チェックや、同じ属性名でも異なる意味を持つデータの整合性を取る整備も必要だ。これらを担うデータ基盤は、利用目的に照らし合わせて最適な構造を考え、それぞれのITツールの特性も踏まえながら実装する必要がある。
広範な役割を担うデータ基盤だからこそ、どんな企業にとっても「これが正解」となるような教科書的な形があるわけではない。業務特性や運用しているシステム、ユーザーの範囲や規模、データガバナンスに対する考え方、将来のビジネス目標などによって大きく違ってくる。したがって、企業ごとに最適なデータ基盤の導入・構築を支え、目的とするデータ活用へ導いていくコンサルタントやアーキテクトには、幅広い業務知識とテクノロジーに対する深い知見が求められることになる。
B-EN-Gがデータマネジメントの専門組織を立ち上げるにあたり、加藤義弘を必要としたのにはそんなところに理由があった。加藤は大学で情報工学を専攻し、卒業後は通信キャリア系のIT企業やユーザー系のSIベンダーでシステムエンジニアとして経験を積み、B-EN-Gに転職してきた人物だ。入社後も担当してきたプロジェクトは広範囲にわたる。
「主にオラクル社製のERPの会計系モジュールを扱う中で、ERP導入コンサルティングと開発リーダーを掛け持ちするほか、BIツールを用いたデータ分析環境の構築支援、さらにはBPM(ビスネスプロセス管理)をベースとした業務改革など、幅広い案件に携わってきました」と加藤は振り返る。この経験と実績に期待が寄せられたのである。
データマネジメントを推進するには、クライアントの課題を理解して解決策をコンサルティングできる『業務知識』、さまざまなシステムの構造を熟知して実装まで行える『エンジニアリング力』、ビジネスの意思決定やアクションにつながるデータ可視化や分析を主導できる『データ活用力』が必要である。この3つの素養および経験を兼ね備えた加藤は、データマネジメントのパイオニアとして、さまざまな案件に果敢に取り組んでいくことになる。
データマネジメントの専門組織に移籍した加藤にとって、その後の日々はまさに波乱の連続だった。「次から次へと“無茶ぶり”ばかりでした」と加藤は笑う。
最初に携わったのは、ある百貨店におけるデータモデルの構想策定および設計だ。どちらかと言えばB-EN-GはB to B領域のシステムを得意としており、B to C領域における本格的なデータモデルの設計支援は初めてといっても過言ではない案件だった。
このクライアントでは当初、顧客のあらゆる情報を集めてワンストップで把握できる、いわゆるカスタマー360を実現しようとデータモデルのあるべき姿を検討していたのだが、自分たちでは成否が判断できなかった。そのため他社のデータモデルを参考にしようとしたが、自分たちのビジネスや社内状況が異なり流用を断念、改めてデータモデルの定義からやり直したのだった。加藤もクライアントと一緒になって、日々真摯にデータと向き合った。
「それまで数多く携わってきたB to B系の案件と勝手が違い戸惑いもありましたが、だからこそ逆に、客観的な目で見られたのが良かったのかもしれません。クライアントが普段から口にしている『お客さま』とは具体的に誰を指すのか。例えば来店した人はすべてお客さまなのか、それとも商品を購入してくれた人がお客さまなのか、ECサイトに会員登録しただけの人もすべてお客さまなのか、祖父母が孫のためにランドセルを買った場合、どちらをお客さまと捉えるべきなのか。さらにインバウンドによる購入者の情報をどのように管理したいのかなど、疑問をストレートにぶつけながら、さまざまな要素の定義を一つひとつ明確にしていった結果、関係者全員が納得できるデータモデルを策定できました」(加藤)
これに続く案件も、スマートフォンのアクセサリをECサイトで販売しているIT系企業におけるデータマネジメントのシナリオ策定、精密機器会社におけるデータ品質の調査・分析など、まさに“初物づくし”のテーマとの格闘だったという。
そして2020年以降、加藤は物流業および製造業における大規模なデータ基盤の要件定義および設計をほぼ並行してリードしてきた。
まず物流業の案件は、データウェアハウスおよびBIを中心としたデータ基盤を構築するとともに、継続してそのデータ基盤を利用した各種データ利活用サービスの実現を支援するものだ。具体的には倉庫の入出荷や在庫状況を把握・分析するダッシュボードを整備するほか、トラック輸送時のCO2排出量の可視化サービスをクライアントと共同で開発し、そのデータ利活用を促進していく。
大きな課題だったのは、これらのデータ基盤やサービスは単に社内のみで利用するのではなく、荷主もしくは既存の荷主ではない新規顧客へ広く提供することを前提にしたことだ。
「複数の顧客向けにサービスを同時に運用すること、また対象顧客が今後も順次増加し数百に上ることが想定されていますので、効率的に拡張できる仕組みを考えなければなりません。内部を極力汎用化した構造にして他顧客への展開を容易にすること、また展開時のデプロイ作業も自動化するなど、社内に閉じたデータ基盤ではあまり重視しないような点も対応する必要がありました」(加藤)
一方の製造業の案件では、新たな顧客価値創造やビジネス成果の獲得のために、マスタデータ管理、データ統合、データ分析の3つの基盤を整備し、誰もが自由に業務システムのデータや生産設備の機器データ、製品から発生するログデータ、そのほか顧客の声といったデータを使って、可視化・分析・予測ができる環境を整えるというプロジェクトに参画した。
「セルフサービスBIでのデータ活用を念頭に、ユーザーごとに参照可能なデータ範囲の権限管理やユーザー自身がデータの内容を判断できる仕組みが求められました。そこでデータウェアハウスおよびデータマートの内部を管理者アクセス層と担当者アクセス層などに分離するとともに、データ基盤上にデータガバナンスツールを導入、ユーザーが分析に必要なデータを探せるデータカタログと利用申請できるデータマーケットプレイスの仕組みを実装することで、この課題を解決しました」(加藤)
なお、ここで紹介した物流業と製造業の2つの案件では、データ基盤のアーキテクチャに対する考え方が大きく違っていることに注目する必要がある。社外を含めた広いサービス提供を目指した物流業のデータ基盤では、公開するデータの鮮度と利便性を重視し、それまでデータ基盤はデータレイク、データウェアハウス、データマートの3階層に分かれていたが、データレイクとデータウェアハウスを1つに統合した。これに対して、データアクセスのガバナンスを重視した製造業のデータ基盤では、より厳格な階層分離を図っており、まったく逆方向のアプローチがとられている。
「データ基盤は最終的に何をどのように可視化するかによってアーキテクチャが大きく異なります。企画・構想・策定の段階でこの目的とコンセプトを明確にし、プロジェクト全体で共有することが重要であるとともに、特定のアーキテクチャに固執することなく、企業ごとに最適なデータ基盤のあり方を考える必要があります」と加藤は強調する。
データマネジメント専門組織でいまや最古参となった加藤は、新たに加わった若いメンバーたちの育成にも関わるなど、体制強化にも貢献している。その傍らでは「DAMA(一般社団法人データマネジメント協会 日本支部)」のメンバーとして、社外活動にも積極的に取り組んでいる。
DAMAメンバーとしての活動は専門組織に移籍した当初から個人資格で行っているものであり、いわば完全なボランティア活動だが、「さまざまな業界から集まったメンバーやデータに関する専門家たちとの交流を通じて得られる刺激は非常に大きく、新たな気づきや知見を随時共有しています」と加藤。
企業ごとに最適なデータ基盤は異なると述べたが、そのあり方は時代によっても大きく変容していくだけに、常に最新の動向を注視し続ける必要があるのだ。
「データ基盤の検討はデータベースとデータ連携の構築にとどまるものではなく、どのようなデータを活用して、どういう分析・可視化ができるか、データの使い方も含めてトータルで考える必要があります。その意味でも、技術的な知見だけでなく、データそのものがもたらす価値や業務に対する理解、つまりビジネス視点から可視化すべき内容の是非など幅広い知見が必要になります」と語る加藤は、今後もさまざまな機会を通してシニアアーキテクトとしての自らの能力に磨きをかけ、企業が真に必要とするデータ基盤を追求し続けていく考えだ。そして、その追求心はとどまるところを知らない。
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