ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
デジタルビジネス本部 データマネジメント部
副部長
松下 卓(まつした たく)
企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)やデータドリブン経営を推進していく上で、まず取り組む必要があるのがMDM(マスタデータ管理)である。
さまざまな部門やシステムに散在し、コード体系や品質も異なるマスタデータを統合し、運用を一元化することで、多くの業務から煩雑な手作業を排除して効率化し、部門横断のデータ分析・活用を可能にするなど、新たな価値を生み出すことができる。ただし、ひと筋縄ではいかない。
まず解決したいことは何なのか、それによってどんな効果を得たいのか、その先でどんなことを目指しているのか。企業ごとに異なる背景や課題を理解し、最適な解決策を導き出す必要がある。
松下 卓はMDMの第一人者として、多くの企業の取り組みを支援している。
B-EN-Gには新卒に限らず、中途入社で活躍するコンサルタントやエンジニアが数多く在籍している。なかでもユニークな経歴を持つのが松下卓だ。大学の管理工学科で生産管理や品質管理、人間工学、統計学などを学び、2002年に新卒でB-EN-Gへ入社した松下だったが、2008年に東京都の某区役所に転職。基幹システムの刷新プロジェクトでプロジェクトマネージャーなどを務めた後、2015年にB-EN-Gへ再び戻ってきたのである。
「ユーザー側の立場から情報システムに携わったことで、あらためてB-EN-Gが世の中で果たしている貢献の大きさや仕事の意義に気づきました。そんなとき、個人的に交流を続けていた元上司から『新しい部署ができたので、よければ帰ってこないか』と声をかけられたことが、B-EN-Gへ戻るきっかけとなりました」(松下)
新しい部署とは現在のデータマネジメント部の前身となる組織だ。当時は「データは21世紀の新たな価値を生み出す天然資源である」と叫ばれ始めた頃であり、もともと大学時代から強い興味を持っていたデータ活用のプロフェッショナルになれるならと、あらためてB-EN-Gでチャレンジしたいという気持ちから復職の決意を固めたのだ。
こうして設立2年目のデータマネジメント部に加わった松下が、今日まで担ってきたのは医薬品、医療機器、印刷、物流、小売など、業界業種を問わない多様な企業に対するMDMの導入・実践の支援である。
「いま多くの企業がDXやデータドリブン経営の実現に向けて積極的な取り組みを開始していますが、その第一歩として企業変革の基盤となるのがMDMです」(松下)
MDMの導入は容易ではない。あらゆる企業に当てはまるMDMの最適解というものが存在するわけではなく、その在り方は百社百様で異なるからだ。そもそも何のためにMDMを導入するのか、明確な目標が定まっていないケースも珍しくない。
「スタート地点はどの企業も共通しており、各所に散在しているマスタデータを統合管理することで社内のさまざまな業務を改善できると考え、MDMの検討に着手します。ところが、いざプロジェクトが動き始めた段階になって『これまでも業務はそれなりに回っていたのに、多大な工数と費用をかけてマスタデータを集約してコードを統一したところで何ができるのか、そこにどんな意義があるのか』といった疑念が生じてくるのです」(松下)
MDMをシステム構築の側面のみから捉え、マスタデータを統合することが目的化してしまっているのが原因だ。
「MDMは決してツール導入の話ではありません。したがって、B-EN-Gにご相談をいただいたお客さまに対しても、MDMによって解決したい課題は何なのか、それによってどんな効果を導き出したいのか、さらにその先でどんなことを目指すのか。徹底的に話し合い、しっかり方向性を見定めた上でプロジェクトに取り組みます。これがB-EN-Gの支援するMDM導入・実践の在り方です」(松下)
松下はこれまで、どんなMDM導入・実践を支援してきたのだろうか。
1つ目の事例として挙げるのは、検査機関におけるMDM導入・実践の取り組みである。
この検査機関では複数の部門に分かれ、それぞれ担当する顧客から依頼された各種の検査を行っている。そうした中で部門ごとにマスタデータ管理も行われてきたのである。
そこで現状におけるマスタデータの管理状態や使われ方を調査したところ、部門ごとにコード体系やデータ品質にバラツキがあり、例えば複数部門をまたいで検査を受託している顧客の売上を集計する際にも煩雑な手作業を要しており、部門ごとに行われているマスタ登録業務にも多大なコストがかかっていることが明らかになった。
同社とB-EN-Gは協議を重ねた結果、MDMの導入によって、まずはこの部門ごとにバラバラなデータ管理という課題を解決することに決定。これに基づいて松下が提案したのが次のような解決策だ。
「全社共通のMDMシステムを構築し、マスタ登録作業および各部門の既存システムへのデータ配信を一元化します。これによってマスタ運用をセンターに集中化するとともに、データ品質のバラツキを排除することで、各部門における業務負担軽減とコスト削減を実現します。さらにこのMDMシステムは、現在では検査ラインを自動化する各種パラメータ情報も一元管理する基盤へと発展しています」(松下)
松下がもう一つ紹介するのは、製造業におけるMDM導入・実践の事例である。この企業ではグループ会社やシステムごとにマスタデータを管理していたことから、大量の重複データが存在しており、それぞれの品質にも大きなバラツキがあった。これがネックとなって、グループ横断でのデータ分析・活用を妨げていたのである。
こちらの課題に対する松下の取り組みで注目すべき点は、前述の検査機関とはまったく異なる解決策を提案したことである。
「このお客さまで配信型(中央集権型)のグループ共通MDMシステムを導入しようとすると、膨大なコストが発生するとともに、構築作業も長期間に及ぶことが予想され、投資対効果は見合わなくなってしまいます。そこで本件に対しては、マスタ発生源となる各グループ会社の既存システムからMDMにデータを都度収集してクレンジングと名寄せを行い、ゴールデンレコードを作成するという方法をとりました。こうして各社のコードとグループ統一コードの関連、および最新の属性情報を管理するマスタHUBを構築し、各グループ会社への業務影響を最小限に抑えつつ、短期間ですべてのグループを包括したデータの横串分析を実現しました」(松下)
もっとも、松下といえども一朝一夕で現在のレベルに到達できたわけではない。データマネジメント部に加わった当初は、現在のようにデータ価値の重要性の理解が浸透していたわけではなかったので、MDMの価値や役割、導入の難しさについてお客さまがきちんと理解しているケースは少なく、常に手探り状態で「正直なところ“ツールありき”のアプローチが多く、プロジェクトの進め方についても思案に暮れる日々でした」と松下は振り返る。
こうしたツール中心のアプローチでは、ユーザー側のオーナーやリーダーと意見が一致しているうちはよいのだが、仮にその人物が他部門に異動してしまった場合、途端にプロジェクトは求心力を失ってしまう。新しいオーナーやリーダーの考え方に基づいて、あらためてツール選定からやり直すといった事態にもなりかねないのだ。
実際にプロジェクトの方針が大きく変わってしまった苦い経験の悔しさから、長くお使いいただけるマスタ管理の仕組みを考えている。多くの案件を通じて実績を重ねる中で「MDM導入・実践に際しては、まずお客さまとともに明確な目標を策定し、将来に至る実現ステップをすべての関係者間で共有することの重要性を身に染みて学んできました」と松下は言う。
また、自治体のシステム部門に務めた過去の経験が「ユーザー(住民)目線に基づいてデータの統合や名寄せを行い、多様なサービスに紐づける感覚を磨けたことも、間接的ながら現在の活動には役立っています」とも松下は語る。
こうした自らの経験も踏まえた上で、松下はMDM導入・実践に向けて重視すべきポイントを次のように示す。
「MDM導入・実践の目的は企業によって千差万別であり、仮に大局的なレベルで背景は似ていたとしても、アプローチは違ってきます。マスタデータを統合管理して何を実現したいのか、最も解決したい課題は何かによって、データの管理対象範囲や機能構成は異なり、ひいてはマスタデータの運用そのものも変わってきます。加えてMDMと関係する業務システムは非常に多岐にわたるため、プロジェクト途中でスケジュール変更を余儀なくされることもよくあります。したがって、周辺業務システムの新規導入や更改の計画を常に意識しながら、プロジェクトを遂行する必要があります」(松下)
そしてデータマネジメント部の副部長となった現在は、部門全体を牽引する立場からメンバーの育成および組織のケイパビリティ向上にも尽力している。
「新卒でB-EN-Gに入社した直後はmcframeの開発やSAPシステムの導入支援にも携わってきたので、顧客対応やプロジェクトマネジメントに限らず、エンジニアの気持ちもよく理解できるつもりです。私に続く若いメンバーの目線を大事にしながら、一人ひとりの成長をフォローしていきたい」と松下は語り、MDMやデータ活用の世界でB-EN-Gの存在価値をますます高めていく覚悟だ。