ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
SCMソリューション1部
高松 亮介
製造業にとって、すべての業務の原点である「計画」は、顧客ニーズの多様化に伴う需要の急激な変化のほか、感染症のパンデミックなど不測の事態に直面するなかで難易度を増している。
ソリューション事業本部 SCMソリューション1部の高松亮介は、顧客との緊密なコミュニケーションを通じて業務背景を深く理解し、全体最適による課題解決の方向性を導き出すことで、あるべき計画系システムを顧客と共に作り上げている。
製造業にとって、すべての生産活動のベースとなるのが「計画」だ。需給計画を起点にPSIや生産計画、MRPなどで構成されるSCM計画系システムから生成される情報を、MESやスケジューリングにつなげることで的確なアクションを起こすことができる。
ところが近年、この計画が難易度を増している。ソリューション事業本部 SCMソリューション1部 シニアコンサルタントの高松亮介は次のように語る。
「製品を作れば売れていた時代は日々の生産計画を立てるだけでよかったのですが、顧客ニーズが多様化した現在は、需要もどんどん変わってきています。さらに製造設備にトラブルが発生したり、今般のコロナ禍のようにサプライヤーからの原材料の供給やグローバルな物流網がストップしたりするといった予測不能な事態も起こります。そうした緊急時には迅速に計画を立て直す必要がありますが、リードタイムに余裕がない中では対応が間に合わず、最悪の場合、オーダーをキャンセルされてしまうこともあります」
これまでの計画は、極端なことを言えばExcelにデータを入力して集計するだけでも無理すればできていたが、多品種小ロット生産やマスカスタマイズ生産などが中心となった現在、扱う部材の点数も爆発的に増えており、生産条件も複雑化している。もはや人手による対応は限界であると認識すべきであり、「市場の急激な変化や不測の事態にも柔軟に対応可能な、レジリエント(弾力性や柔軟性に富む)な生産活動を支える計画系システムが求められています」と高松は強調する。
実際にさまざまな製造業において高松が手がけてきた、計画系システムの課題解決のいくつかのケースを見てみよう。
ある健康食品(サプリメント)のメーカーは、製造をすべて外部に委託するファブレス体制をとっており、立案した委託計画にもとづき、協力工場に対する支給品の調達および管理を実施していた。しかし、この健康食品メーカーを悩ませていたのが、たびたび発生する委託先からの納品遅れである。
「このお客様に不足していたのは、委託先の製造能力をより正確に見極めた計画立案でした。また、お客様の事業そのものは右肩上がりで成長しており、需要の急増に追従した製品の供給体制や新製品の投入を支えるためにも、素早い計画変更を可能とするシステムを導入することが急務でした」(高松)
そこで、まず実施したのがスケジューラー(負荷調整、順序計画)の導入である。これを基盤に生産計画の立案からPSIの管理、支給品の調達、管理まで一連の業務をシステム化し、情報収集を効率化することで立案業務に専念できる環境を整えた。
さらに次のステップとして、メインの協力工場にも同じスケジューラーを導入することを提案した。委託元と委託先の両社間で情報を共有しつつ、計画に沿って製造を進められる体制を整えたのである。
「これにより製造工程に遅延が発生した際に、より早い“気づき”を得て影響範囲を特定し、対処のための迅速なアクションをとれるようになりました」(高松)
2つめに取り上げるのは、ある半導体メーカーにおける計画系システムのリプレース案件である。この半導体メーカーはもともと非常に高機能な需給計画管理システムを導入していたのだが、このシステムはすでにサポート期限が切れ、十分な保守も受けられない状態で運用を続けていたのである。加えて導入当時の担当者は配置転換や定年退職などでどんどんいなくなっており、このままではシステムがブラックボックス化してしまうおそれがあった。そこでリプレースを決断したというわけだ。
「現行システムを最新バージョンにアップグレードするという選択肢もありましたが、高度な計画をサポートしているがゆえに、ライセンス費も高く、お客様はより廉価なシステムに切り替えることで運用コストを下げたいと望んでいました」(高松)
ただし、そうなると問題となるのが、計画系システムの機能レベルのダウンであり、どうしても現状の業務との間でギャップが生じてしまう。
「そこで現行システムの仕様を改めて精査し、新システムのフィット&ギャップ分析を通じた議論を重ねながら、計画のTo-Be像を策定していきました」(高松)
計画系システムは必ずしも高機能であるほどよいというわけではない。関係者全員が業務背景を理解し、計画のあるべき姿をイメージして共有し、機能ありきの個別最適に陥らない全体最適の方向性を見出していくことが重要なのだ。
もう1つ取り上げておきたいのが、ある機械メーカーにおける計画系システムの刷新プロジェクトである。
この機械メーカーは予算および年次・月次の生産計画を立案した以降、個々の製品をどの順番で製造するのかを決定する、いわゆる「1個流し生産」の週次計画をERP上で立案している。その処理を担っているのは長年にわたって増強してきた大量のアドオンだ。
もちろん、これまではそれで問題なかったわけだが、このERPのサポート終了が近づき、最新製品へのアップグレードが急務となった現在、改めてこれらのアドオンの問題が浮上してきた。新たなERP基盤へアドオンの移行や再構築を行うとなれば、膨大な工数とコストを費やすことになるからだ。
そこで、この機械メーカーはこれを機に、計画系システムをよりシンプルな基盤に改めることにしたのである。
「将来の運用を見据えたお客様の判断は正しく、B-EN-Gの経験からも計画系システムはシンプルかつ柔軟であることが大前提となります。製造業にとってその時々のデータを見ながら臨機応変に計画を見直すことが重要ですが、先述したような市場の急激な変化や不測の事態に対応するためには、計画系システムは新たな考え方を機敏に導入するなど、それ自体の仕組みを柔軟に変えられなくてはなりません」(高松)
そして提案に至ったのが、ある鉄鋼メーカーにおいてB-EN-Gが導入実績を持つスケジューラーだ。まったく業態の異なるプロセス系のスケジューラーを適用することには意外な感じを受けるかもしれないが、こうした発想の転換こそが求められているのである。
「鉄鋼製品はたとえ品番が同じであったとしても、その時々の生産条件によって複雑な投入順序制約をもって資材を加工する後処理、ならびに投入する資材ごとに異なる状態を整えるための前処理を緻密にコントロールする計画と管理が必須となります。この考え方は、まさにお客様の1個流し生産と共通します。ディスクリート系の計画であっても、大量生産から多品種小ロット生産、マスカスタマイズへと移っていくに従い、プロセス系における計画や管理の考え方が大いに参考となるのです」(高松)
繰り返すが、製造業の計画系システムにとって最も重要なことは、製造工程に発生しているさまざまな問題により早い段階で気づき、その影響範囲を特定し、迅速なアクションを促す仕組みを実現することにある。
「プロジェクトを進めている途中過程であっても、お客様が新たな要件を思いついた際には気軽に話しかけていただける関係性を築くことを常に留意しています」と高松は語り、顧客との緊密なコミュニケーションのもと、急激な環境変化や不測の事態にも柔軟に対応できる“あるべき計画系システム”をこれからも共創していくという。
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