ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
SCMソリューション第1本部 SCMソリューション1部
柳沼 慧
製造業のなかでも装置産業における計画系業務の設計やシステム化は、とくに高度なノウハウと経験が要求される。
ソリューション事業本部SCMソリューション第1本部SCMソリューション1部の柳沼慧が所属するコンサルティングチームが"ある製鉄会社"で取り組んできた、計画系業務モデルの刷新ならびにそれを実行するシステム構築の取り組みをケーススタディとして紹介する。
高炉で作られた銑鉄は、不純物を取り除く製鋼のプロセスを経て、スラブやビレットと呼ばれる鋼片となる。さらにこれらの鋼片は、さまざまな種類の圧延機で加工され、厚鋼板、熱延鋼板、冷延鋼板、高機能薄鋼板類などの製品となる。
柳沼が所属しているソリューション事業本部SCMソリューション第1本部SCMソリューション1部のチームが、ある製鉄会社から依頼を受けてコンサルティングに入ったのは、まさにこの製鉄プロセスのある工程を対象とした計画系業務モデルの構築である。
この工程には、複雑な投入順序制約をもって資材を加工する後処理と、投入する資材毎に異なる資材状態を整えるための前処理があり、製鉄会社は生産のボトルネックとなっていた前処理の生産能力を増強することで、工場全体のスループットを向上させたいと考えたのである。そのためには計画業務を基本方針から見直すと同時に、その計画を確実に実行するITシステム(スケジューラー)を再構築しなければならない。
とはいえ、これは簡単なことではない。
「これまでは前処理がボトルネックとなっていたため、この工程の前に常に仕掛在庫を持たせていましたが、前処理の生産能力が増強することで、仕掛在庫を持つ必要性も無く、また、クリティカルパスは連続処理の後処理に移ります。この工程の前の仕掛在庫をなくすためには、投入する資材の状態によって処理時間が変わる前処理と複雑な投入順制約を持つ後処理を同期させる必要があります」
「さらに、資材を製造する前工程が予定どおりの仕様で資材を製造できなかった場合には、その分を仕掛在庫から投入することになります。後処理の複雑な投入順制約をクリアして、且つ、前処理の処理時間を出来る限り短時間で済む資材を仕掛在庫から見つけ出し、前工程からダイレクトで投入される資材と合わせて、最適な投入順序を即座に計算しなければいけません。このように変化する状況をリアルタイムで把握しながら、全体プロセスを最適化するスケジュールを迅速に組み立て直さなければなりません」
上記のような課題を解決するために、柳沼らがまず取り組んだのが、工程内の連続処理において後処理の生産効率を最大化するスケジューリング・アルゴリズムの構築である。
「後処理をいかに遅滞なくつなぐことができるかが、工場全体におけるスループット向上に直結するのです。ただし前処理は大量のエネルギーを投じるため、製造コストの観点から無視できない指標であり、可能な限りその生産効率も落とさないで済むようにアルゴリズムを考慮しました。アルゴリズムは、B-EN-G のコンサルタントが過去のプロジェクトで実践していた制約理論(Theory of Constraints:「制約理論」)による設計を行いました。また今回のようなスケジューリングの基本方針の大転換を生産現場に定着させるためには、計画者の意識変革が必須であり、今後のオペレーションを見据えたKPIを定義することにも注力しました」
続くステップとして取り組んだのが、新たに整備したアルゴリズムを実行するシステムの構築である。
「組み立てたスケジュールを実行するためには、特殊な製造仕様や設備利用の制約、優先すべきプロセスなど多岐にわたる制約条件をクリアする必要があり、工場内に分散しているドキュメントや製造マニュアルなどをかき集め、関係者にヒアリングしながらB-EN-Gが持つ、制約条件のシステム仕様書フォームのレベルまで1つひとつ整理し、モデル化していきました。こうして洗い出された数百におよぶ制約条件をシステムに実装しました。またハード制約とソフト制約(ルール)を切り分けて実装しています。基本的に自動スケジューリングはハード制約に基づいて行われますが、ソフト制約違反についてもアラートを発することで最適な生産を支援します」
なお、工程間を最短時間で同期するとともに、状況変化をリアルタイムで捉えながらスケジュールを迅速に仕切り直すことができるパフォーマンスを確保するため、新システムではインメモリ・データベースを採用し、実績収集を担っているホストコンピューターからプッシュ型でデータ連携する方法をとった。
「今回のようなシステムを実現できた背景には、やはりB-EN-Gとして製造分野におけるデータマネジメントの豊富なノウハウを有していたことが大きいと言えます。実績データをどのように加工・正規化すれば効率的なスケジューリングを実現できるのか、またその処理にどれくらいの時間を要するのかといった経験則と知見を活用することで、バッチ的な実績収集・再スケジューリングではなく、設備から収集されたリアルタイムの実績情報を元にした再スケジューリングを2分間隔で実行するシステムを構築することができました」
今回のような計画業務・システムのコンサルティングに重要なポイントとして、柳沼は次の3つのポイントを挙げる。
第1は計画業務モデルを定義すること。対象設備やアルゴリズム、制約条件、画面操作などの要素に分けて、それぞれの目標レベルを定義することで、お客様が目指す(スループットをさらに向上させたい、工程間でより効率的かつフェアなリソース配分を行いたい)計画業務を具体化することができる。
「計画業務モデルをお客様に先んじて検討し、提示していくことが重要です。お客様自身が考えを具体化するきっかけにして頂くことを常に考えています」
第2は継続的な改善の視点を持つこと。計画業務は日々の運用を通じた改善が続くため、それに合わせて目標も見直していく必要がある。
「新たな目標を設定したり評価したりするためには、先述の計画業務モデルの要素ごとにPDCA(目標定義・実行・評価・次ステップ定義)をスパイラルに高度化していく必要があります。また、継続的な改善を続けるためにも、お客様のユーザー部門とシステム部門それぞれに改善のスペシャリストを配置して頂くことも重要です」 第3はシステム設計に全体デザインの視点を持つこと。計画業務では、そのPDCAサイクルを回していくための最適なシステム構成が重要となる。
「システムによるスケジューリングの自動化のみならず、ERPやMESなどのシステムからどのような方法で実績データを収集し、計画に合ったクレンジングを行って連携させるのか。さらには計画を評価する方法(過去の計画や実績との比較、多次元での表示など)、計画を調整する方法(評価後にいかにスムーズな計画調整を行えるか)なども踏まえ、全体のシステム構成をデザインしなければなりません。加えて計画業務には『S&OP→需給→生産→スケジューリング』といった階層があり、階層毎に加味すべき制約やルールが違っています。お客様の現状業務や既存システム、ビジネス目標などを考慮し、ちょうど良い"塩梅"を見つけることが求められます」
顧客の業務課題に対して高いQCDを確保するために、先述のような考え方が汎用化されて部署内および組織横断でノウハウとして蓄積すること、つまり、「ビジネスのエンジニアリング化」ができることが、B-EN-Gの強さの一つなのである。
[掲載内容は2017年9月時点のものです]
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